ランデヴー II
別れたあの日から、私達が以前のように会話をすることは1度もなかった。


ただ事務的に仕事の話をするだけの日々。



だから少なからず私は――賢治ともう1度話がしたいと思っていた。


とは言え話す言葉なんて見つからないし、きっかけすら容易には掴めない。


そもそもあんなに酷いことをしておいて、どの面下げて話ができるというのだろう。



でも、叶うならばまた付き合う前の2人に戻りたい。


同僚として、友人として。


私はそんなずるいことを考えていたのだ。



だから、もしも賢治が私と同じ気持ちでいて、きっかけを作ってくれたとしたのなら……少し嬉しかった。


私は淡い期待を抱きながら「有難う」と言って、その紙袋を受け取る。


雨に濡れたそれはずっしりと重く、今にも破れそうだ。



テーブルの上にそれを置こうと、賢治に背を向けたその瞬間。


背中に軽い衝撃と、一瞬の冷たさと、そして後にじんわりと温もりを感じた。
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