ランデヴー II
それなのに。



「そんな必要ない。俺、帰るし」


背後から聞こえた賢治の声に、背筋が一瞬にして凍る。


受話器を持ったまま思わず振り返ると、すぐ傍に冷めた眼差しでモニターを覗き込む賢治の顔。


そしてその手がすっと伸び、解錠ボタンを押した。



「ちょっと、賢治!」


思わず出た言葉にハッとして口を覆うも、時既に遅しだ。


再び見たモニターには、既に誰の姿も映っていなかった。



呆然とそれを眺める私を余所に、賢治がその場を離れる気配がする。


再び振り返ると、彼はハンガーからジャケットを取り、本当に帰り支度を始めていた。



慌てて受話器を戻し、その背中を追う。



「待って! せめて傘だけでも持って――」


玄関へと向かうその背中を追いかけながらそう言うと、賢治の足がピタリと止まった。
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