ランデヴー II
「賢治……ごめんね……」


泣くのも、謝るのも、ただの自己満足。


自分が楽になりたいだけの、身勝手な行動。



わかっていても、言わずにはいられなかった。


目の奥がじんと疼く。



「俺――」


賢治の唇がそう動いた、その時だった。


玄関の扉が大きな音と共に開いたのは。



「坂下さん!」


濡れたままの賢治と、濡れた傘を手にした倉橋君。


静かな賢治と、息を切らす倉橋君。


その姿は対照的で、息が詰まる。



動けずにいる私の前で、賢治がふっと歩き出した。


そして、倉橋君の体を押しのけるようにして擦れ違いながら、ボソッと一言何かを囁く。



瞬間、倉橋君の目がハッと見開かれ、そして。


扉はパタンと軽い音を立てて、閉まった。
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