ランデヴー II
でもグッと私の腕を取って胸元に抱き寄せる彼の仕草は優しく、すぐに私はホッとする。


緊張から解き放たれた気がして、小さく息を吐いて目を閉じたその時。


倉橋君が何かに気付いたかのように、突然バッと体を離した。


私の二の腕を掴んだまま、その顔には信じられないという驚きが浮かんでいる。



「背中……濡れてますよ」


そう言われ、心臓がドクンと跳ねる。


さっき賢治に抱き締められた時に濡れた背中が、まだ乾いてなかったのだ。



「どういうことですか?」


一瞬にしてその目が怒りに変わった気がした。



「俺が来るまでの間、何してたんですか?」


「何、って……ただ、話を……」


「へぇ。話すだけで、背中って濡れるんだ?」


しどろもどろな私にイラつくように、意地の悪い言葉が返ってくる。


責めるようなその目に耐えきれず、思わず視線を逸らした。


でも倉橋君はそれを許さない。
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