ランデヴー II
佐田さんは結婚を機に退職して、もういない。


部屋だってザッと見ただけだけど、他の女性の気配なんて微塵も感じられなかった。



何よりモリケンが今潔白なのは、長い間友人として傍で見てきた私が1番良くわかっている。



「大丈夫、信じてるから」


私はそう言って、モリケンの体に腕を回してキュッと抱きついた。


だんだんと体が冷えてきた今、こうして身を寄せ合うと何だかホッとする。



「ゆかり……」


突然名前を呼ばれ、ドキッと胸が震えた。


その顔を仰ぎ見ると、誘うような眼差しで私を見るモリケンと視線が絡み合う。



「ずっと、そう呼びたかった」


そう呟いたモリケンは私の後頭部に指を絡めて抱き締めるようにすると、軽く首を傾けてキスをした。


私は背中に手を伸ばしてコートごとギュッと握り、それを受け入れる。



吸っていた煙草の香りが色濃く残る、深い深い口づけだった。
< 48 / 408 >

この作品をシェア

pagetop