ランデヴー II
私は何も言えずに、倉橋君から目を逸らした。


やっぱりさっき、気付かれてたんだ……。



否定、するべきなのだろうか。


そう思いあぐねる私の隣で、賢治はあっさりと口を割る。



「あぁ、まぁ……みんなには言ってないけどな。お前もあんま人に言うなよ?」


「言いませんよ。そっか……坂下さん、良かったですね。好きな人ができて」


倉橋君は、普通だった。


世間話をするかのように、その整った顔を綺麗に綻ばせて私と賢治の関係を祝う。



胸がしびれるような感覚に、息が詰まりそうだった。


私は……何を期待していたんだろう。


寂しそうにして欲しかったとでも言うのだろうか。



もう、関係ないのに。


倉橋君はもう私のことなんて好きでも何でもないのに。



「うん。有り難う」


私はそれだけ言うのがやっとで。


にっこりと上げたつもりの口角が微かに震えていることに気付き、そっと俯いた。
< 76 / 408 >

この作品をシェア

pagetop