ランデヴー II
「だ、ダメだよ。まだ会社の人達いるかもしれないし……」


「酔ってるから大丈夫」


賢治は何が大丈夫なのかわからない私の手をとり、ゆっくりと歩き出した。


その力強さに、優しさに、抱きつきたい衝動に駆られる。



私はその手をやんわりと解くと、自分から腕を絡めた。


ギュッと寄りかかるようにして賢治の腕にしがみつくと、「お前マジ酔い過ぎ」と笑われた。



不意に涙の気配がして、キュッと唇を噛み締める。


ちゃんと私を……私の心を捕まえていて欲しい。


どこへも行けないように、離れないように……。


歩調を合わせてくれる賢治を愛おしく感じながら、心の中でそう願う。



私はわざと明るく話しながら、賢治に寄り添って歩いた。


心の中を覆うこの曇り空のような不安を、賢治に気付かれないように……。
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