ランデヴー II
以前よりも少しだけ会社に近くなったし、キッチンも対面式で間取りは気に入っていた。


少し狭くなった上に家賃は上がったが、最寄り駅まで徒歩3分と近いし、複数の路線が使える便利な駅だから満足している。



再び水を飲み込んで目を閉じると、倉橋君の存在が心に浮かび上がる。


普通の顔で、普通に言われた。


『良かったですね。好きな人ができて』


と。



微かに胸を引っかかれるような、小さな歯がゆさが心の奥底に残っている。



倉橋君の想いに応えられなかった、あの冬から……。


彼への想いは、何故か日を追うごとに強くなっていた。


まるで陽介のことを1つ忘れる毎に、1つ倉橋君のことを好きになるような、そんな感覚。



最初は寂しいからだと思った。


急に独りぼっちになって寂しいから、彼のことを恋しく思ってしまうのだと。


でも違うと気付いたのは、2人きりで仕事をしていた時のことだ。
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