ランデヴー II
お昼休憩が終わったばかりのトイレは女子力の高い女性達でいっぱいだが、夕方にもなるとガランとしている。


私は用を済ませると自分の棚からポーチを取り出し、化粧直しを始めた。


この時間になると、顔の疲れや化粧崩れが気になってくるものだ。



鏡に映る自分を見て、そう言えば最近エステに行ってないなぁ……とぼんやりと考える。


週末は賢治と会っているし、平日も何だかんだで食事をして帰ることが多かった。


ネイルサロンも行かなければならないし……予約の電話をしようと頭の中でカレンダーを広げた、その時だった。



トイレから誰かが出て来る気配がして、私は何気なくそちらに目を向けた。


すると、今村さんがのんびりとした歩調でこちらに歩いて来るのが目に入る。



彼女は私の存在に気付くと一瞬息を呑んだように見つめ、慌てて頭を下げた。



「お……お疲れ様です」


「お疲れ様です」


ニッコリと微笑んで挨拶を返す私に、今村さんは少しホッとしたような顔をして隣に並ぶと蛇口を捻った。


その姿を見て、私はハッとする。


彼女が私を怖がっているように見えたからだ。
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