社長の旦那と恋煩いの妻(わたし) シリーズ大幅修正加筆中



――分からない。


自分の出した言葉なのに分からない、というか無意識のうちに発していたから。


ハッとした時にはそう言い、拓斗さんの眉間に皺が深く刻まれていた。





「言えば頷くのか?」

「……」

「此処に来た理由は一つ。それは優子を迎えに来た。それ以下もそれ以上もない」





お父さんとお母さんの前なのに呼び捨てするのは拓斗さんらしい。





「帰ろう」





微かに目を細めた拓斗さんはそう言いながら右手を差し出した。


‘帰りたい’


差し出してくれた右手に、ゆっくり自分の手を伸ばしてあともう少しで繋がるという時に。





「ちょっと待ちなさい」





黙っていたお父さんが口を開き、ピタリと止まる私の手。



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