お仕置きゲーム。
ギリ。肩に歯が食い込む。じんわりと口内に鉄の味が広がった。啓太は悲鳴をあげることも、突き放す事もしなかった。
薄暗い部屋。広がる鉄の匂い。気絶した侑里乃ちゃん。すべてが私を混乱に陥れる。啓太は何故マサキを離さないんだろう。
数分間、同じ状況が続いた時、先に引いたのはマサキだった。マサキの口の端には啓太の血がついている。拭う事もせず、混乱した表情で啓太を見た。「い、いい加減離せ。」「わかった。」啓太は以外にもあっさり開放した。よくわからない、彼は何を考えているんだろう。
「落ち着いたか?」「てめぇのせいでヤル気うせた。」そう言えば啓太はほっとしたように笑った。どうして、啓太は、怯えないの。歪まないの。
「この際はっきり言うけどさ、俺、久しぶりにお前見たときビックリしたよ。男だったのに女みたいになってるし。」「…」「けど、お前はお前だし、普通に接することにしたんだ。」「…お前頭おかしいんじゃねえの。」「…だって、お前がどんなに変わっても、ダチってことにはかわりないじゃん!」
胸の奥がむず痒くなった。よくわからない気持ち悪い感情がじわじわと広がっていく。啓太は、私にとって、眩しすぎるんだ。
「俺、さっきもいったけど、もう、何も失いたくないんだ。真咲がいうように綺麗事かもしれないけどそれが俺の本心だから。真咲が間違いを起こそうとしてたら全力で止めるし、お前が苦しかったり悲しかったりしたら力になるからさ!」
だから、暴力はやめようぜ。後で後悔するのはきっとお前だから。「…ざけ…な。」「真咲?」「ふざけんなよ!テメェに真咲のなにがわかンだよ!護るのは俺だ!誰も信じない!勝手なこといいやがって!俺をどうしたいんだよ!!」マサキの目から涙がこぼれた。マサキ、泣かないで。悲しまないで。
「…俺はお前を助けたい。」
かけられたことのない言葉は心臓に突き刺さった。硬く閉ざしてきたモノを無理やりこじ開けようとしてくるみたいで、怖い。「…っ、」
「そんなの、したって…お前のために、なんない、だろ」「なる。」啓太は即答した。優しい言葉が、私を襲う。何かが溶かされていく。怖い、怖い、消えちゃう。いやだ、消えたくない。消えないで。マサキ、真咲、私は、マサキ?パニックに陥る。なにをどうすればいいのかわからない。答えが見つからない。
なにが正解?信じていいの?誰を?啓太?マサキ?真咲?ねえ、教えて。助けて、わからない、わからないよ。怖いの、裏切りが、ひとりが。
ぽたり、ぽたり。マサキは大粒の涙を流しながら啓太をみた。混乱してるナカに戸惑いながら、震える唇で呟く。
「啓太、たすけて」