生意気なハケン君
その時、後ろから足音が近づいくる気配を感じた。



どんどん距離が縮まっていく音は、

何故か私のすぐ側でピタリと止まった。






「……?」






後ろに人の影を感じた私がそのまま後ろへ振り返ると……――。












「……」

「……」









大きく目を見開いて驚いた私の目線の先には、





私同様に驚愕したまま私を見つめる一人の男性の姿があった。








「課長……」






唖然としたままボソリと呟くその声は、



会社で私を憤慨させたあの憎き声だ。





頭が真っ白の私に浮かぶ言葉など無い。






ただこの状況が夢であって欲しいと願うばかりだ。










――冷たく吹き付ける四月の南風。





私の髪が大きくなびき、

彼のシャツが風に舞う。






――引っ越ししてきたのって……、彼じゃないわよね?







漸く思考回路が蘇った頃には既に遅く、




彼の手はすで部屋の鍵がしっかりと握られていた。
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