一枝の寒梅
けれど、あの方がわたしのことを妹として見ていないなら、武市さんにも同じことが十分言えるだろう。
今思えばなぜ、わたしと婚姻しようと言い出したのだろうか。
武市さんに特別‘‘好かれている‘‘と感じたことはないし、彼もわたしのことを妹のようにしか思ってないだろうと思っていた。
彼の心が読めるはずもなく、気づけばまたわたしは武市さんの横顔を見つめていた。
「――ほら、どうしたの?」
突如その横顔の主がわたしの方を向いて、そう言い放った。
「え……?」
わたしの目の前に視線を映す武市さん。
目の前には酒の入った杯をわたしに差し出す人。
嗚呼、こんな時にわたしは何をしているのだろう。
恥ずかしくて、少し頭を下げて杯を受け取る。
「……んっ」
酒を三回にわけてぐっと喉に流し込んだ。
むせ返りそうになる程の強烈な酒特有の味。
――やっぱりわたしは酒が苦手だ。
そう改めて実感した。
酒を飲み終えると、武市さんは酒が苦手なわたしを知ってか、「頑張ったね」と言わんばかりにわたしの頭を手のひらでぽんぽんと撫でた。
武市さんに視線を送ると、彼は優しい陽だまりのような笑みを浮かべていた。
ようやくこの人がわたしの夫という実感がわいてきたような気がする。