一枝の寒梅
それから話がとんとん拍子で進み、婚礼の日がやってきた。
「富子、あなたとっても綺麗よ。ほら、ちょっとお父さん何泣いてるの。泣くのはまだ早いわよ」
「あぁ、すまない……いやあ、富子。立派な花嫁になったなぁ」
鏡の前に映るわたしは、純白の白無垢に身を包み、紅色に染まる唇。
頭の上に乗せられた綿帽子が少し重くて、その重みから自分が主役の婚礼をするという現実がそのままのしかかっているかのようだ。
突然の婚姻。
実感などわくはずもなく、ただ棒立ちになったまま白無垢を一方的に着せられる。
「もう、富子。あなたが主役なのよ?何ぼうっとしてるの。まるで割り箸に白無垢を着せている気分だわ」
母が白無垢のしわを丁寧に伸ばしながら、少し心配そうな顔をしてそんなことをつぶやいた。
「だって……実感がわかないんだもの」
ふと、すぐそばに置いてある手鏡で自分を顔を映す。
真っ白な白粉で塗られた真っ白な肌。慣れない真っ赤な口紅。
それはまるで本物の花嫁のようで。
――いや、わたしは正真正銘の花嫁なのだけれど。