一枝の寒梅
武市さんから視線を離して、親戚達が座る方に視線を移す。
あの方とは……親戚達に交じってやけに声を張り上げてわたしたちを祝福する青年達。
わたしは、その中のひとりに視線を集中させた。
――坂本龍馬さん。
わたしとは遠縁にあたり、武市さんと最も信仰が深い人物。
あのお方は……わたしがひそかにお慕いしている人……。
武市さんと同じくらい昔から知っていているお方。
わたしの初恋だった。
あの方をお慕いし始めたのは、ほんの数年前。
何事にも一生懸命で、志を貫くお姿にいつのまにかひかれていて、気づけば夢中で恋焦がれていた。
けれど、彼がわたしのことを好きになるはずが
ないことは重々承知していた。
だって、あの方はわたしのことを妹のようにしか思っていないから。
その気持ちはきっともう一生変わることはないだろう。
彼のわたしへの態度を見ていればそれが痛いくらい如実に伝わってくる。
だから、この気持ちをお伝えする前に、武市さんとの婚姻が決まって、わたしはこれをきっかけに、この気持ちを押し殺してなかったものにしようと思っていた。
いいことに、まだ誰にもこの気持ちをさらけ出したことはない。
わたしの秘密の淡い恋だったのだから。