さくら色 〜好きです、先輩〜
「驚かせたら…森の中に走って行っちゃって、小野田君と恭介君が探してるんだけど…」
「…っ!」
森の中に…?
確か施設の人が、この森には崖があるって…
最悪の事態が俺の頭の中を駆け巡った。
「どっちだ!どっちに行った!!?」
「あっちに…」
俺は萩原が指を差す方向へ無我夢中に走り出した。
森の中は一歩踏み入れると道はなく草木が生い茂り、真っ暗でまるで別世界のようだった。
「葵ー!!」
名前を呼んで耳を済ましてみても、虫や草が掠れる音しかしない。
どうか…どうか無事でいてくれ…
俺がすぐに助けに行くから…
暗闇は森の奥へ行けば行くほど深くなっていく。
木の根や地面に這うツルに足を取られ、なかなか前に進めない。
焦る気持ちだけが先走る。