さくら色 〜好きです、先輩〜
踏み出す時
私の席は窓側の後ろから二番目。
この時期の少し開けた窓から入ってくる春の温かい風の匂いが好き。
もう桜はほとんど散ってしまい、地面にはピンクの絨毯が敷いてあるように見える。
今は数学の授業中。
数式なんて頭に全く入って来ない。
今朝、教室に入る前に里美に言われたことが頭の中をグルグル回る。
『先輩の心を温められるのは葵だけだよ』
私だけ?
私に何が出来るの?
結局答えの出ないまま昼休みになり、那奈と購買に向かった。
あっ…
途中、渡り廊下の真ん中で足をピタッと止める。
先輩が渡り廊下の窓から校庭を見ていた。
校庭では男子生徒が楽しそうにサッカーをしている。
先輩の横顔は入学式の日に見た時と同じ寂しそうな顔をしていた。