さくら色 〜好きです、先輩〜
夏樹さんはお父さんを驚いた様子で見ている。
お父さんは一番後ろの席から階段を降りて一番前の柵に手を掛けた。
「立て!夏樹!負けるな!!」
暫しの静寂が会場に漂う。
夏樹さんは唇を噛み締め、一筋の涙が頬を伝った。
「そうだ!夏樹頑張れ!!」
「夏樹!奏人!!二人とも頑張れ!」
昔の仲間達もその場に立ち上がり大きな声で声援を送る。
夏樹さんは先輩の手を取って立ち上がった。
泣きそうだった…
目に溜まった涙で視界がぼやける。
言葉は少なかったけどお父さんの気持ちも昔の仲間の気持ちも十分に伝わったと思う。
お父さんの後ろで佳菜子さんは目頭を抑えながら笑みを浮かべていた。
それから試合は再開し、夏樹さんの動きは格段に良くなった。
今の夏樹さんは反則行為もなくなり、まるで別人のようだった。