さくら色 〜好きです、先輩〜
夏樹さんがボールをセットし始めると会場全体が静寂な空気に包まれた。
佳菜子さんは顔の前で両手を握って夏樹さんを見守っている。
そして…
夏樹さんの放ったボールはど真ん中のゴールネットを揺らした。
相手チームの応援席から一斉に大歓声が沸き起こった。
夏樹さんがガッツポーズをお父さんに向けたと同時に夏樹さんの仲間達が夏樹さんに飛び乗り喜び合った。
お父さんも笑顔で立ち上がって夏樹さんに拍手を贈っている。
一方、先輩は仲間一人一人と手をパチンと合わせた後、ゆっくりとペナルティーエリアまで歩いて行く。
まだ応援席が騒がしい中、慎重にボールをセットし助走位置まで歩数を確かめるように下がった。
先輩は今、一体何を思ってゴールを見ているんだろう。
復帰してから今日まで、先輩が人の何倍も何倍も努力してきたのをずっと見てきた。
久しぶりに思いっきりサッカーが出来る喜びの反面、二年というブランクの重さや思うように身体が動かない歯痒さが先輩を苦しめる時期もあった。
でもそれを全部乗り越えて、今先輩はあそこに立ってる。