傍観少女。
悪魔のようなそれは人形
case01
俺の初恋は中2の春
クラス替えが行われてしばらく経った時。
クラス替えと言っても、割りと交友関係が広かった俺には特に違和感もなく周りに馴染んでいた。それは俺だけじゃなくてクラスの人間ほとんどで、あっという間にみんな仲良くなっていた。ただ一人を覗いて。
中2になると同時に転校してきた西園寺エリカ
一目見たときは寒気がした。冷え切った目付き。周りの人間全てに敵意を剥き出しにしているような。そんな目をしていた。
彼女はクラスに馴染もうとする努力を一先しなかった。だからと言って近づく人間を突き放すようなこともしなかった。
来るモノ拒まず去るモノ追わず
彼女のためにある言葉のようにその時は感じていた。
そんな彼女に俺は恋をしていたわけだが、その経緯を聞いていただきたい。
クラス替えの喧騒は一月経てば嘘のように落ち着いていた。部活も始まって各々が放課後を過ごしている時、不覚にも教室に忘れ物を思い出した俺は取りに戻ったのだ。部活をやるはずの体育館から教室までそう遠くはない。少し駆け足で向かえば10分足らずで帰ってこれる距離
誰もいないだろう教室のドアを開けた時に少しの違和感。その正体に気付くのに時間はかからなかった。
西園寺エリカが一人自席に座っていた。
誰もいない教室に座っているだけなのに何故かしっくりくる画だった。
授業中見ていてもどこか違和感を発している西園寺だったがこの時ばかりはそんな違和感を感じなかった。
彼女に似合うのは一人なんだと感じさせられた。それと同時に寂しいと感じた。
西園寺に近づきながら声をかけた。
「あー、えっと。西園寺?」
「あら、人が来ちゃったのね。」
俺の声に振り返った彼女の声は心地の良いソプラノで初めて俺に向けられた声に少しだけドギマギしてしまった。
「なにしてんの?」
「特に何をしているわけじゃないんだけどね。先生が部活を勧めるから考えてるの。」
眈々と答える西園寺の言葉に嘘は見えなかった。実際、部活案内のパンフレットと入部届けを手にしていたからな。
「入りたい部活とかねーの?」
「部活に興味がないからね。」
「前の学校では部活入ってなかったのか?」
「転校の繰り返しだから入る意味が見つからないの。」
「あ、なんかゴメン。悪いこと聞いたな。」
「謝ることないわよ。事実だし、私自身気にしてないし。」
彼女はつまらなそうに紙を弄ぶ。
「どうせこの学校にだって1年もいないだろうし」
小さく呟かれた言葉を聞き逃すことはなかった。
「団体行動苦手なのよね。やーめた。」
そう言って徐に立ち上がる西園寺の手には大きく帰宅部と書かれた入部届け。
帰宅部って、存在しないし。
「はははっ。あはははははっ!帰宅部って…っふはは!」
いきなり笑い出した俺に驚いたのか凝視している西園寺
「何がそんなにおかしいのかしら。」
いきなり笑われたことにヘソを曲げたのか少し拗ねたような顔をする西園寺
「…お前、そういう顔もするんだな」
「つくづく失礼ね。いきなり笑い出したかと思えば私の表情に文句をつけるなんて。」
「いや、そういう意味じゃないけどさ。ほら、お前っていつも一人でいるイメージあるからさ表情少ないじゃん?そういう人間らしい顔するんだなって思って」
「私が人間じゃないとでもいいたいのかしら?」
「だから、そういう意味じゃねえって。捻くれてんなー」
「ごめんなさいね。私、超が付くほどの捻くれ者なの。」
「おもしれーやつ。あ、俺そろそろ部活行かねーと。じゃあな!それから、帰宅部って部活は存在しねーから」
俺はそれだけ言って忘れ物を手に教室を出ようとした。
「ねえ。」
彼女の声に足を止めて振り返る
「名前は?」
そっか。転校してきたばっかでクラスメイトの名前覚えてないのか。
「結城良介!」
「ゆいきくん…ね。部活頑張ってね。」
この時。まさにこの瞬間。
柔らかく微笑んだ西園寺に恋をした。
単純と言われてしまえばそれまでだろう。
女の子の笑顔は武器だというが。彼女の笑顔はどこか違った。心臓を掴まれたような気分になった。
これが俺の初恋。
俺の諦めたくない恋だ。
悪魔に恋をした。