時は今



 太陽もまだ高いところにあるからか、運動公園に人は少なかった。

「運動公園、来たりするの?」

 ピアノを弾く人にしては意外に思ったのか忍が訊いてみると、四季は妹のバレエで、と答えた。

「体育館で時々ね。家にもレッスン用の部屋はあるけど、広々としたところで感覚掴みたい時があるみたいだから」

「四季は?」

「僕?…ああ、僕はきちんとバレエのレッスンは受けたことなくて…」

「向いてそうなのに。四季、姿勢が綺麗。似合いそう」

 忍は素直な感覚でそう言った。音感が良くて立ち居振る舞いにも品が感じられる四季は、バレエという表現はしっくり来るような気がした。

 四季の表情にわずかな憂いが差す。

「うん…。バレエ、本当は好き。足が疲れやすいっていうのがあって、それで制限かけられたんだよ」

「え…」

「成長痛って知らない?僕が小さい頃は成長痛なんて言葉聞かなかったから、その後出てきた言葉なのかな。それがあってバレエは…っていう。ピアノは足を疲れさせるものではないから、それはすんなりさせてもらえたけど」

「そうなのね」

 綾川四季の家はそのあたりでは名の知れた家だと忍は聞いていた。──静和から。

 静和や涼もそうなのだが、そういう由緒ある家の子は好きなものや習い事はさせてもらっているのが普通のような印象が、忍の中ではあった。

 だが、違うのだ。

 そういう家の子でも生まれついた個人的な事情によっては好きなことが出来ない時もあるのだ。



 
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