時は今

[101~200]




「身体弱いの?」

 こういう話は男子はあまりしたくないのではないかという気がしたが──。忍は四季のことが知りたくなったので、そう聞いてみた。

 四季はずっとそういう自分に向き合って来たからか、四季の人柄がそうであるのか、それで卑屈になる様子は見受けられなかった。

「小さい頃はね。中学生の頃からかな…ひとりで外に出かけることが多くなって。最初は楽譜を探すついでに他にその近辺に何があるのか探索してみようかって気分からだったんだけど。外に出ることが多くなってから、強くなってきたみたい。由貴とは学校が離れたからというのもある。それまで一緒に帰ることも多かったし、ふたりでいると由貴、僕のこと心配するから。無茶には動けない」

 体調を崩した時に支えになってくれることも多かった由貴なので、四季は由貴が心配することを「そんなに心配しなくてもいいよ」とは強く言い切れずにいた。

 運動公園には競技用のトラックやグラウンドの周りにジョギングや散歩が出来るような遊歩道があり、四季と忍は遊歩道を歩いて、涼しげな休憩所を見つけると、腰を下ろした。

「おにぎり買ってきた。あと飲み物も。コーヒーとお茶あるけど。揺葉さん、どれがいい?」

「ありがとう。コーヒーもらっていい?」

「どうぞ」

 四季は忍にコーヒーを渡し、お茶の缶を開けた。

 結構歩いて来ていたので、飲み物が美味しかった。四季が飲んでいるのを見て、忍もコーヒーの缶を開ける。少し口にしてみた。

 いつだったか飲んだことのあるはずの飲み物の味が、口の中に広がった。

「…美味しい」

 缶を両手で持ち、口元には笑みが浮かぶ。

 不思議だ。身体は感情とは別物であるはずなのに、こんなふうに身体が味わったもので、快い感情が呼び覚まされるのが。

 四季も嬉しそうな表情をした。

「病気してる時って、何も食べたくないことあるよね。食べようとしても喉を通らなかったり、味がわからなかったり…。美味しいって思うってことは、揺葉さんは健康だっていうことだよ」



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