時は今
「そう…なのね」
忍は不思議な感覚で、綾川四季という男子を見つめた。
もしかしたら綾川四季の言うことを意地悪く「人に受け入れてもらいやすい先天的な条件を生まれ持った人間が口にする傲慢」だと叩く人間もいるかもしれないが、少なくとも忍の目には四季はそうは見えなかった。
「孤独だったりする?」
──たくさんの人の中にいても。
四季は忍の問いかけが何気ないようでいて、心のどこかで誰かとそういうことを話してみたかったという部分に触れられている気がして、忍の顔をあらためて見ると、興味深そうに打ち開けた。
「孤独ね…。孤独かと訊かれたのは初めてかも」
「人に囲まれて社交的にふるまっている人でも、心では孤独を感じていたりすることもあるわ」
「揺葉さんはそう感じたことのある人間?」
「…そうね。いつもそう感じるわけではなくて、ふとした瞬間なんだけど」
忍の落ち着いた話し方は四季の心をも落ち着かせた。
「僕、時々庭を散歩するんだけど、揺葉さんとは一緒に歩いてみたい感じ」
「庭?」
「うん…。花とか綺麗で…。木立とか、林道とか。そういう場所散策したら楽しい感じ」
「ふふ。四季くん、話してみるとあれこれ意外な顔があって興味深いんだけど」
「え…。だって、そういうの話しても…。あまりいなくない?男子で散策が好きとか…。友達とはそういう話、したことない」
「彼女とは?」
「彼女が好きな場所、テーマパークとか、可愛いものがあるお店とか、そういうのだから」
「そっか…。彼女の好みか。四季くんの好み、言ってみたことある?」
「ある…けど」
「けど?」
「植物園は?って何気なく。そうしたら『虫いない?』って。虫苦手みたいで」
「ああ…。虫苦手な子は本当苦手だものね」
「揺葉さん、虫苦手?」
「そうでもないわ。子供の頃は男の子みたいな遊びもしたもの。膝に擦り傷作ったり」
「揺葉さんこそ意外」
「そう?」
忍はその頃の自分を、懐かしむような目をした。