時は今
「揺葉さんは、どうして僕を訪ねて来てくれたの?」
星の丘で見た揺葉忍は、少なくともそこからこんなに離れた場所まで自ら出向いて来て、外界との接触を積極的にするようには見えなかった。
「『新しい音楽にふれてみたくなった』ってさっき答えたでしょう?静和以外の場所でどんなふうにその風は動いているのか、知りたくなったの」
忍は素直に答えた。
「あのまま、傷を抱えながらじっとしていて、まだそれはつらかったりもするんだけど、ふと、私がこんなところでこんなことを考えている間、同じ年頃のあの男子たちは別のことを感じたり考えたりしているのねって──そう考えると、そういうものに触れてみたくなったの」
「それでも思い出のある人の音楽に引き寄せられたりはしない?」
失った人がいるのは四季ではないのに、四季は淋しそうに答えた。忍はそれが何故なのかがわからなくて、四季を見つめた。
四季は優しく微笑んだ。
「由貴…僕のひとつ下の従弟がね、小学校の頃に母親を亡くしてるんだけど、その母親がピアノが弾ける人でね、だいぶそれがショックだったみたい。家のピアノを見ると母親を思い出すから、しばらくピアノも弾けなくなって」
「……」
「…僕もつらかったけど。でも言えなかった。一緒にピアノ弾こうって。続けようって。由貴には時間が必要なんだって思ったから」
(時間が必要──)
忍には深いところで響く言葉だった。
「……。そして──いつまで待てばいいの?って顔をされるのね」
自虐的なような、それでいて四季を慰めるような言葉が、忍からは発せられた。
四季はふふっと笑った。
「そして今度は気負わなくてもいいとか…気遣われたりして、余計に『もう放っておいてほしい』『それに関しては触れないでほしい』みたいになったり」