時は今



 四季は頬杖をついて、人気のないトラックを見た。

「こんなところに来るの、久しぶり…。日常とは違う風を感じてみるのもいいよ」

「スポーツは好き?」

「団体競技は苦手かな…。走るのは好き。走っていればいいから」

 その答え方に忍は笑った。

「走っていればいいからって」

「格闘技みたいに脳震盪起こしそうなものは怖いよ。怪我したら痛いし。相手も痛いのは嫌だし。揺葉さんはスポーツ好き?」

「スポーツね…。嫌いではないわ。腹筋は鍛えなさいとは言われてるけど」

「体育の先生に?」

「ううん。声楽」

「そう。なるほど」

 トラックに人が姿を見せ始めた。学校の授業が終わったのだろうか。野球のユニフォームを着た少年が数名。

「学校終わったみたいだね。そろそろ行こうか」

 四季が立ち上がった。

 忍もつられて立ち上がる。

「今日はありがとう。久しぶりにこんなに人とお話したわ」

「うん。僕も新鮮だった」

「そうなの?普段から女の子とお話すること多そう」

「多いけど…。揺葉さん、やっぱり少し違う。いい意味で」

 四季はこの微妙に違うものは何だろうかと考える。単純に木之本真白と揺葉忍との違いなのか、それとも──自分のそれぞれの少女に傾ける想いの差なのか。

 揺葉忍と別れ、四季は歩き始めた。



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