時は今



 智たちとは別に登校してきた涼もそのピアノの音を聴いていた。

(四季くんが弾いてる)

 コンクールの時に聴いた音と変わらない、世界が見えるようなピアノ。

 それと──…。

(一緒に弾いているのは誰?)

 四季の響かせる音に、何の違和感もなく共鳴する音。四季のピアノを知らなければ弾けない弾き方だ。

 涼はすぐには由貴だとは思い浮かばなかった。由貴が弾くのを実際には聴いたことがなかったからだ。

(すごい)

 あの綾川四季のピアノをより聴かせる響き。控えめで、でも不思議な存在感。

 涼は走り出した。可愛いツインテールの髪がふわふわと揺れる。

「あ、桜沢さんだ」

「桜沢さんが走ってるー」

 普段の桜沢涼ではあまり見られない意外な姿を発見した男子が騒いでいる。

 涼は真っ直ぐに器楽室に向かった。四季の弾くピアノに合わせているのが、誰なのかを知りたかった。

 涼は器楽室の一室にたどり着くと、そっと扉に手をかけた。開けてみる。

(あ…)





 会長だ…。





 涼は釘づけになった。

 会長が弾いている──。



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