時は今
曲がふっと途切れた。
「涼?」
「涼ちゃん?」
どちらからともなく由貴と四季に名を呼ばれ、涼は「ごめんなさい」と謝った。
「あの…四季くんのピアノ聴こえたから…。四季くんのピアノに合わせている人、すごいって思って…」
「へぇ…。良かったね、由貴。涼ちゃんに惚れられ直されてるよ」
「うるさいな」
由貴は恥ずかしそうに涼から目を逸らす。
「すごくないよ。涼の方がすごい」
涼はそれでも、なかば放心状態で由貴のことを見つめている。
四季が言葉を失っている涼に優しく声をかけた。
「涼ちゃんは由貴のピアノ連弾で聴くのは初めて?由貴のピアノいいでしょ?」
「う、うん…。もっと聴きたかった」
「由貴、意地っぱりだから、自分が納得行かないとなかなかこういう一面出してくれないんだよね。僕は勿体ないと思うんだけど」
由貴は何を思っているのかしばらく黙ったままで、やがて口を開いた。
「涼にはまた聴かせてもいいよ」
由貴の頬の紅潮が涼にもうつったのか涼はほんのり頬を染めて、可憐な小顔には幸せそうな笑顔がこぼれた。
「うん」
それを見ていた四季も何だか照れてしまう。
「恐るべし涼ちゃん…。グリーグの大曲も、由貴の意地も、涼ちゃんの笑顔には敵わないね」
「え?え?」
おろおろしている涼の頭を、四季は何となくなでてしまう。
「涼ちゃん可愛いね、由貴。騒いでる男子の気持ち、何かわかる」
「可愛い言うな」
嫉妬している様子の由貴に、四季は笑ってしまった。