時は今



 由貴と四季は従兄弟同士で、四季の方がひとつ歳上である。

 四季が由貴たちと同じ学年で学んでいるのは、病気で休学していた期間があり、その年は進級出来なかったためである。

 休学する前までは音大附属の高校に通っていて由貴たちとも高校は別だったのだが、諸事情あって由貴と同じ高校に転校したのだ。

 また体調を崩した時に事情を知っている由貴がいる方が心強いということもあったし、長期間休学していたことで四季自身がかなり不安になっていたこともある。

 もっとも四季は本来明るくて人懐こい性格であるため、当初の心配はよそに今は由貴たちと同年代の生徒としか思えないくらいに自然に溶け込んでいたのだが。

「四季くん、さっきピアノ弾いてたねー」

 …という感じで女の子が自然に周りに集まってくるのは、四季自身に愛嬌があるからだろう。

 由貴と四季は顔立ちは似ていたが、生真面目で口数が少ない由貴に比べて、女の子に優しい四季はわかりやすくよくモテた。

 四季が転校してくるまでは由貴が孤高の王子という雰囲気だったのが、四季が来てからは男子の心理は「由貴だけでいいのに、さらに余計な王子様野郎が増えやがって」である。

 しかも四季はそれをふんわりと笑顔で交わしてしまう才能(?)を持っているのか、本気で四季が逆怨みされている様子はない。

「四季、お前な、教室でハーレムなんか作ってたら、そのうちぜってー痛い目見るからな!!」

「平気だよー。黒木くんも女の子と仲良くなればいいんじゃない?座れば?」

「くっそ、こいつマジムカつく」

「暴力反対ー。僕、言っとくけど、殴ったら本気でまずいからね」

「お前、ぜってー卑怯だろ!?人が殴れないの前提でナメてるだろ!?」

「考えすぎ。お腹空いてるの?クッキー食べる?はい」

「ああ…サンキュ。あ、美味いじゃん。…って、女子から貰ったクッキー喰わすな!!嫌がらせか!!」

「嫌がらせって失礼だよ。せっかく美味しいクッキーなのに。ねぇ?」



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