時は今



 四季には露骨に「ムカつく」感情を投げつけても、四季が四季であるため、ケンカにならないのである。

 周りの女子も、何かと四季につっかかる黒木恭介に情が湧いたのか、「黒木くんもクッキー食べる?」とか「いつも四季くんとネタ考えてるの?」と面白がられ、結果的に女子に歓迎されて四季とも仲良く(?)なってしまうという昨今を呈してしまっている。

 午前中の授業が終わり、いつものように「四季くん一緒に食べよう」と女子が集まってきた。

 四季はまだ数学のノートを開いたままである。

「四季くん、もうお昼だよー」

「んー…。解けないとすっきりしないんだよね」

「何?最後の問題?私解けたよー」

「ほんと?荻堂さん教えて」

 四季は数学が苦手である。

 転校してきて直後、女子が四季に何か接点を持ちたい一心で、たまたま「四季くん、数学教えて」と声をかけた時に、「ごめん。僕、数学苦手」と素直に答えたことが逆に女子にとっては良かったらしい。

 以来四季に教えてあげようと数学を頑張る女子が増えて、数学の試験のクラス平均点が上がったとか一部では囁かれている。

「何?お前、マジでわからんの?」

 黒木恭介がコロッケパンの袋を四季の頭の上にのせる。四季は上目遣いに恭介を見た。

「何で?わからないふりして何か得でもあるの?」

「いや、お前、頭良さそうに見えるじゃん。俺らより1つ上だし」

「残念ながら、頭の作りは年齢関係ないんだよね。由貴なんか怖いくらい出来るもん」

「でも、四季くん他の教科成績いいし。気にすることないよー」

「どうでもいいけど、昼メシの時間はメシを食え!」



< 121 / 601 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop