時は今
四季は忍から手渡された楽譜の表紙に目を落とした。
『森は生きている』
原作はサムイル・マルシャーク。先日忍が歌っていたソロが原作のタイトルの歌だった。
その時は四季には初見で弾ける易しい譜だったのだが──。
「何、これ…」
四季は譜をめくっているうちに真剣な表情になってきた。元からある曲に編曲がなされている。
こんな編曲が出来る人間がこの学校の音楽科にいるということだろうか?
「ごめん、荻堂さん。数学はまた今度教えて。僕、音楽科に行ってくる」
「えー?四季くん、お昼はー?」
荻堂芽衣の声が追いかけるが、四季は楽譜を手にしたまま教室を出ていってしまった。
恭介がやれやれといった体で肩をすくめる。
「俺にはわからん人種だな。花よりも団子よりも音楽か」