時は今
(こんな難曲に出逢ったと感じるのはどれくらいぶりだろう)
四季は休学をする前までの感覚を思い出していた。
まだ弾いたことのない曲を前にする時はいつも新しい気持ちでいるのだが、1曲、また1曲と弾ける曲が多くなるということは、その新しい感動に出会うことが少なくなっていくということだ。
休学してからは、新しい曲に出会うどころか弾ける曲さえ弾くことを止められてしまったから、こんな気持ちになるのは本当に久しぶりだった。
けれど。
(今の僕に弾けるだろうか)
身体がついて行くだろうかという不安がよぎる。
四季はピアノのことになると寝食忘れてしまうタイプである。
間違えると練習のし過ぎで身体を壊してしまう可能性もなくはない。
(由貴にペース配分してもらおうかな)
由貴とは小さい頃から一緒に練習することが多かったが、由貴はむやみやたらに練習するということはなく、何か自分の中でバロメーターを持っているのか、それまで真剣に練習していても、ある一定の練習量に達すると「今日はここまで」と、自分でストップをかけるのである。
「四季、今日はそれくらいにしておいた方がいいよ」と止められたことも何度かある。
由貴がいない時に弾いていて体調を崩すことが多かったから、由貴がいることでバランスを保っていられたのかもしれない。