時は今
教室の前で、職員室から戻ってきた由貴と涼に会った。
由貴は生徒会長で涼は副会長である。このふたりは何かと雑用を抱えていて、捕まらないことも多い。
「ああ、四季」
「おつかれさま。…涼ちゃんも」
四季は涼の姿を改めて見て、この小さな少女が今手にしているピアノの編曲を、と考え、複雑な気分になった。
どんな思いで編曲にあたっていたのか考えずにはいられない譜だった。
どう弾けばいいのか──編曲した本人に聴くなら、それがいちばん曲の理解には早いだろう。
だが、四季の中には純粋な興味が湧いていた。
(綾川四季が桜沢涼を表現するとしたら?)
桜沢涼という人。
目の前に生きてそこにいる人の曲を弾くということを、四季はまだ経験したことがない。
「四季くん?」
涼が怪訝そうな顔をする。四季は軽く首を振った。
「涼ちゃんに聞いてみたいことがあったんだけど…まだやめておく。気にしないで」
「……?うん」
「由貴、これから時間とれる?二人で話したいことがあるんだけど」
「え?うん」
由貴は涼に「いい?」と確認をとるように見た。由貴はお昼は涼や智と一緒にいることが多いのである。
涼はにっこりした。
「うん。智と二人で食べてるね」
「ごめんね。涼ちゃん」
「ううん。いいよ」
涼が教室に入っていってしまってから、四季が「ちょっと悪いことしたかも」と口にする。
由貴は「大丈夫だよ」と言う。
「俺も四季に話したいことあったし」