時は今
「ワン!」
サンドイッチを食べ終えたところで、忍の膝に白い犬が足をのせてきた。
「可愛い。どこの子?」
「ワンワン!」
頭を撫でると犬は嬉しそうに尻尾を振った。
すみませーん、と追いかけてくる声。ハルモニ・オン・ザ・ヒルの服に身を包んだ少女がかけてきた。
「はっ!静和さんの彼女さんだ!きゃーすみません!それ私の犬なんです!」
忍は笑って少女に犬を返す。少女は息を整えながら言った。
「はー。すみません。うっかりワンコなんて連れてくるものじゃないですね。涼さんを見に来たはずが、ワンコばっかり追いかけてるんですよー」
「ふふ。でも可愛い。名前は?」
「ワンコです!」
元気いっぱいにそう言われ、忍は笑い出してしまった。
「ワ…ワンコ?そのままなの?」
「はい!ワンコ!…おかしいですか?可愛いと思うけどなぁ」
「ううん。可愛い」
「そうですよね!ちなみに私はモモって言います!モモって呼んでください!…お隣り、いいですか?」
屈託のない少女だ。忍は「どうぞ」とモモを隣りに座らせた。
「ふー。今日はいい運動してるかも。ワンコのお陰で。あ、お名前…忍さん、って呼んでもいいですか?」
「うん。私のこと知っているんだ」
「はい。憧れの涼先輩のお兄様の彼女さん、ですから。すみません。私、涼先輩マニアの領域に入ってるので、ちょっとストーカーなんじゃないか私?って自分でも思ったりするんですけどねー。迷惑かけたりはしないので、気になさらないでくださいね」
よくしゃべる子だ。でもそれが彼女らしい心地良い雰囲気を作り出している。
「可愛い服、好きなんだ?」
「はい!大好きです!こういうショップの店員さんになれたらいいなぁ、なんて思っちゃいます!夢がありますよねー。親には何でこんなものに金継ぎ込むんだって怒られちゃうんですけどね。でもね、人生やってて良かった!って思えるくらい大好きなものって、やっぱり価値あるものだと思うんですよー」
大好きなもの、を語るモモの目は生き生きとしている。