時は今
由貴は四季のその言葉を聞いて「忍がそうしたいと思ってしているのならいいけど」と言った。
間があって、由貴が四季に訊いてきた。
「忍のこと、好き?」
「──。好きって…急に聞かれても困るけど。どうして?」
「忍、男性に対して警戒心強いみたいだから。四季にはそんなことない?」
「ううん。そう感じたことはないよ」
「そう。──俺、一度手を振り払われたことがあって…。忍、大人っぽく見えるけど、そういうところあるから…気を遣ってあげて」
「うん。わかった」
気を遣ってあげて、と言った由貴が大人のように見えて、四季は苦笑する。
「由貴のこと好きな女の子がいるのって、クールなようでいてそういう優しいところがあるからなのかもしれないね」
「知らないよ。というより忍は桜沢静和が好きなんだから関係ないよ」
「そうかな。前に話した時、忍は由貴のこと信頼しているみたいだったよ」
「信頼は信頼であって、それ以上でも以下でもないよ」
由貴の口調は淡々としているが忍が由貴のことを話していた時と同じようにそこには信頼がある。
「そういえば、由貴が話したいって言っていたことって何?」
「ああ…。四季の話で何だか俺の話はどうでもよくなった」
「どんな話だったの?」
「夢の話。──変な夢見て、目が醒めた。何であんな夢見たんだろうと思って」
「あはは。でも由貴がわざわざそう言い出すくらいだから、夢がどうこうというより、今の由貴に何か抱えているものがあるんじゃない?」
「──なのかな」
「涼ちゃんとのことで悩みがあるとか?」
「…わからない。わかりやすくこれといった悩みはないんだけど、悩みがないとも言い切れない感覚」
「そう」
「……。四季が入院していて‘死にたい’って言った時、こんな気持ちだったのかなって思った」
「──そんなに深刻な話?由貴、大丈夫?」
「大丈夫。…ダメだ、上手く言葉で説明出来ない」