時は今



 由貴が冴えない表情でため息をついている横で、四季は何やら由貴を愛でるように見ている。

「何見てるの」

「いや、由貴好きだなと思って」

「変なこと言うなよ」

「だって由貴がいなければ今の綾川四季はここにいないからね」

 骨髄移植をするには、HLAが合っている必要があるのだが、偶然従弟の由貴が四季と一致したのである。

 それで移植をすることが出来たのだ。

「俺の骨髄なら今後免疫力期待出来るんじゃないの」

 由貴は四季に比べてほとんど病気らしい病気をしたことがない。

 四季が「そうだね」と相槌を打った。

「由貴が生きていく時に、もし‘死にたい’気持ちになった時は、僕を呼んで」

「うん。──って何の話してるの、俺達」

 四季が笑った。

「死について考えている時は、生きることについて考えている時だよ」



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