時は今
「涼先輩もね、私には理想そのものなんです。学校のお勉強もそうだし、ピアノとかも頑張ってらして、こういうお洋服のお仕事も。努力っていうのかなぁ。ポリシーっていうのか、素敵に生きたいっていう姿勢が見えるじゃないですか。もちろん、完璧に理想的な人間なんてこの世に存在するわけないんでしょうけど、それでも何かしら、見てる人に夢を与えてくれる何かを持ってる人って、素敵だと思うんです!」
忍はそう語るモモの表情が素敵だと思いながら見とれていた。
純粋な想いのある人の語る言葉は、素敵な音楽を聴いているように心地良い。
「…あ、あの、私、話し過ぎでしょうか?煩かったら止めてくださいね」
「ううん。素敵な表情をする人だなぁって思ってた」
「え」
「大好きな気持ちって、人を幸せにしてくれるものだと思う。私、モモの話を聴いていて何だか幸せな気持ちになれたもの」
「はわ。そ、そうですか?わー嬉しいです。忍さんにそんなこと言われたら舞い上がっちゃいますよー」
緊張しながら、モモは隣りに座る忍を見る。
忍は4月から高校3年になると聞いた。モモとは3つ違い。モモにも姉がいて忍と同じ歳なのだが、それでも忍くらいに落ち着いた雰囲気はない。
「忍さん、落ち着いてますよねぇ。私、姉がいるんですけど、忍さんほどは落ち着いてないです。大学受験だし、何かいつも余裕ない感じ」
何でそんなに落ち着いているんですか。不思議です。
モモは純粋な疑問を忍にぶつけてきた。忍は静かに答えた。
「私、ずっと、高校を卒業したらすぐに働かなきゃって思いながら生きてきたから…静和に進学の学費なら出すから、音楽を勉強しろって言われて…戸惑ってるの」
「…忍さん」
「勉強はきちんとしているのよ。でもその言葉に甘え切れない自分がいる。本当にいいのかって。だから落ち着いて見えるだけで、中身はそんなに大人でもないのよ」