時は今
(うん。大丈夫みたい)
忍はヴァイオリンを弾けるかを確かめて、軽く息をついた。
「忍ちゃん、手、痛くない?」
ヴァイオリンの音を聴いた涼が忍のそばにやってくる。忍は笑顔になった。
「うん。力を入れると痛むけど、すぐ良くなると思う」
「良かった」
涼はまだ髪を下ろしたままだ。忍が涼の髪にふれる。
「髪、やろうか?」
「いいの?」
「うん。どうする?」
「忍ちゃんにおまかせしてもいい?」
涼は時々忍に髪型を決めてもらっているが、忍はこういうことが好きなのか、いろんなアレンジにしてきてくれるのだ。
鏡の前に座る涼の髪をときながら忍は小さく歌をうたっている。
「忍ちゃん、スタイリストにもなれるね。硝子さんがこの間、この髪型誰にやってもらったの?って」
「そう?嬉しい。自分の髪では出来ないからなんだけど」
「忍ちゃんは髪はのばさないの?」
「私?私はいいよ。涼だからこういうアレンジは可愛いんだと思う」
忍の髪型はシンプルだ。短すぎないサラサラのショート。
かえってそれが忍の美しさを引き立てているのだろうか。
忍は涼のサイドの髪で細い3つ編みを作り、後ろで束ねた。リボンを選びとり結んでくれる。
「出来たよ」
「ありがとう」
忍は鏡に映る涼を見つめながら「涼が本当に妹だったら良かったのに」と言った。
涼も鏡に映る忍の瞳を見る。
「──忍ちゃん」
「ごめん。何か変なこと言ってる」
「ううん。涼は忍ちゃんはお姉さんになる人だって思ってたから」
「そう」
忍は「ありがとう」と嬉しそうに言った。
「四季が静和に似てるところある。顔立ちではないんだけど」
「四季くん?」
「うん。育ちの良さというか…。見ていて少しつらい」
涼は忍をふり返った。
「忍ちゃんは四季くんのこと嫌い?」
「ううん。四季が優しいから、罪悪感を感じているのかもしれない。四季はどうして優しくしてくれるんだろうとか」
「四季くんが優しいのは忍ちゃんだからだと思う」
「え?」
「忍ちゃんは何かそうしてあげたくなるようなところ、持っているんだと思う。お兄ちゃんもそうだったけど、忍ちゃんがそれだけそばにいたくなるような人なんだと思う」