時は今
立川朔哉が鉛筆を放り出した。
「──なあ由貴」
「何?」
「受験に美術は必要かー?」
「まあセンター試験には出ないね」
由貴は時々ランプの置物をじっと見ながら、丹念に描いている。
由貴の横で四季がスケッチブックを机に置いた。
「終了。僕、休憩」
「うわ。こいつ激ムカつく」
淡い描線で綺麗に描写されたランプの置物。立川朔哉は四季の絵を見て唸った。
「だって、四季のお父さん、絵を描く人だし」
由貴が言う。
「は?画家か?」
「ううん。料理人」
答えているのは四季。
「ああああ意味がわからん。料理人で絵を描くって何だ?つか絵を描ける奴の感覚がわからん」
四季は窓際に椅子を持って来ると外を眺め始めた。すでに絵を描くのに飽き始めた男子生徒が四季の横で騒ぐ。
「おー揺葉忍だ」
「うちの女子の体育着最高」
見ると、忍のスタイルの良さは際立っていた。脚が綺麗なのである。
「どうせなら、ああいう芸術描かせてくれたらいいのに」
四季が何気なく言う。
「四季、いいこと言った!」
「……。本田くんの場合、女の子は見たいけど描く気はゼロだよね」
「それは四季みたいな奴が描けばいいことじゃん?俺が描いたら芸術の冒涜だぜ」
「ふーん。揺葉忍の冒涜はいいんだ?」
「何だ貴様も揺葉忍が好きか!」
「…本田くんの好きと一緒にされたくない」
「失敬な。俺は生半可な女子好きではないぜ」
「うん。とても危険だと思う」
「何ー!?」
「そこ、描き終わっていない人は席に戻る」
美術教諭の若槻雅人の声が飛んだ。