時は今



 しかし笑顔が見えたのも一瞬だけで、涙腺が決壊したように涙がこぼれてきた。

 四季は忍に「情緒不安定」と言うと、抱き寄せる。

「泣けば?まともに泣くこともしないから泣き方忘れているんじゃないの」

 忍は言葉も忘れてしまったように、ただ涙だけが伝っていく。

 好き。

 好き。

 好き。

 理由のない好きだけが心を埋め尽くしていて、こぼれていった。

「…好き」

 言いたかった、言えなかった、抑えていた気持ちが口をついて出ていた。

 言葉にすると、止まらなくなった。

「…由貴が好き」

「うん」

「大好き」

「──うん」

 四季は言葉を受けとめて抱きしめた。



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