時は今



 泣いたせいで頭がぼーっとしている。

 気がつくと、忍はカフェモカを飲んでいた。よくわからないが四季に連れられて。

 というと四季の立場がないが、この時の忍の心境を言葉にするとそうだったのである。

 逆に忍がこれだけ無防備になれる人間というのもあまりない。そういう意味では四季は特別な存在ではある。

 四季は忍の向かい側に座って同じカフェモカを飲んでいた。

 忍が見ていることに気づいて「落ち着いた?」と聞いてくる。忍は頷いた。

 騒がしすぎない店内。自分たちの他にも客は見られたが、高校の制服を着ているのは自分たちだけだった。

 たぶん四季が店を選んでくれたのだろうと思えた。

 同じ学校の生徒が来るような店だと後でいろいろ噂されるから。

 四季は窓の外を眺めていた。何か話しかけてくるわけでもなく。否、話しかけてきたのかもしれないが、自分がまともに反応出来たとも思えないし、まともな反応をした覚えがない。

「──どうかした?」

 四季が忍に視線を返した。

「ううん。…ありがとう」

「いいよ」

 もう大丈夫なら送って行くけど、と四季は言う。忍が答えるまでに少し時間があった。

「まだ…」

 四季は意外な言葉を聞いたように訊く。

「まだ僕といる?」

 忍は何だか頭がうまく回らない感じで、ただ気分は悪くはなかったため「まだ帰りたくない」と言った。

「ピアノが聴きたい。四季の」



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