時は今
智と帰るのは久しぶりだ。忍は智の隣りを歩きながら聞きにくそうに口を開く。
「智、四季と何か話したの?」
「…ああ」
智は星空を見上げた。
「僕ではだめなのかってお前に伝えた話ならしてた。それと、お前が会長を好きなことも知っていてかなり心配してるみたいだった」
「──」
「私も何となく、お前もしかしたら会長のこと好きなんじゃないかって思ってたから、心配してた」
私には言ってくれたら良かったのに、と智は言った。忍は俯く。
「──隠しておかなくちゃって思ったの。涼とも由貴ともこのままでいたいから」
「…ま、こういうのはな。なかなかうまく出来るもんでもねーし。お前の気持ちもわからなくはねーけど」
「……」
忍は何処から話せばいいのか迷い、由貴たちが曲を弾いていた時に泣いてしまった話からしはじめた。
「曲を聴いていたらつらくなって、音楽室から出たら──四季が探しに来てくれたの。私、その時、少し変になってて」
「変って?」
「鐘のところに立ってたの」
「鐘って、校舎のてっぺんの?」
「うん」
「お前な…。何だってそんなところに」
「どうしてそこにいたのかわからないの」
「…ま、いいや。で、四季が見つけてくれたと?」
「うん。最初、由貴に見つけられたと思ったの。初めて由貴に会った時も、私、木のてっぺんにいたから。でも由貴じゃないって言うから…。ほんとに由貴じゃないんだってほっとして──気を失って」
「……」
「──気がついたら、四季の片腕に抱きかかえられていたの。それで…そのまま屋上で話してたら、何だか気持ちに収まりがつかなくなって、四季の前で泣いてしまったの。由貴が好き、って」
智は聞いた言葉を整理するように聞き直した。
「四季の前で、会長が好きだって泣いたってことか?つまり」
「…うん」
それは、忍にしては相当壊れている状態ではあるまいか。あまりに痛い。
「で、四季は?」
「何も言わなかった。ただ抱きしめてくれてたの」
「ああ…何か痛すぎる。四季の方も大丈夫なのか、それ。四季、お前のこと好きだから優しいんだろうけど」