時は今



 忍本人もそのことについては落ち込んでいるようだった。智はぽん、と元気づけるように背中を叩いた。

「ま、仕方ねーこともあるさ。四季に甘えられる時は甘えとけ。その方が四季も安心するだろうし。つーか、お前の近くにいる男が四季で良かったわ。四季が心配になるのもわからんでもないわ。たまたま四季だったから良かったようなもので、他の男だったらお前、何されてるかわからんぞ」

 忍は「そうだね」と反省する。

「で?気分はすっきりしたか?ピアノも弾いてもらったことだし」

「うん」

 まだ胸は痛んだが、音楽を心から楽しめたことで、何か一区切りついた気分にはなっていた。

「四季に、お前のことが好きだって話聞かされた時にさ、私、言ったのよ。桜沢静和が何?揺葉忍は俺が幸せにしてやるくらいの気持ちはないのかって。──その方がお前にはいい気がしたし」

 忍はそれを聞いて少し考えた。

「好きな人ではなくて、幸せにしてくれる人という条件で選ぶなんて考えたことなかった」

「あのねー忍さん。世の中それでいいんです。つーか忍さんが純粋すぎるんです。でも忍がそーだから四季は忍を好きになったのか?とは思うけどね」

「じゃあ智は幸せにしてくれる人なら誰でもいいの?」

 智は首を捻った。

「幸せ…。いや、誰でも良くはなかろーが。つか、私は好きになれる男じゃなきゃダメだろーな。すると、やっぱ好きってのがいちばん大事なのか?」

「ふふ。智も変」

 忍は笑った。



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