時は今



 布団の中で横になって目を閉じていると、生活の音が聴こえてくる。

 ドアの開閉の音。配達のバイク。床を踏む時の軋み。

 自分の鼓動。





「──四季くん」

 コン、と音がして、控えめにドアが開いた。

「…先生」

 滝沢詠一だった。四季は身を起こそうとしたが、そのままでよろしい、と言われてしまった。

「母が?」

 呼んだのか、という意味合いで聞くと「なに、近くまで来たからだがね」と詠一は四季の眠っているそばに椅子を引き寄せて来た。

「わざわざ私のところまで来させる労で身体がどうかされたらかなわん。私の方から来てしまったよ」

 詠一は祖母の早織の幼なじみである。四季は小さい頃から世話になっているからか、詠一は四季を可愛がってくれる。

「ふむ。少し無理をしただけかね。熱は下がっとるようだが。学校は忙しいのかね?」

「定期演奏会があるので、少し」

「…ああ。そういえば先日診た子は確か音楽科の子だとか言っておったの」

「はい」

「彼女かね?」

 聞かれて、四季は答えに戸惑ってしまった。忍が詠一に会った時はそうではなかったからだ。

 詠一は「ははは」と明るく笑った。

「不粋なことを聞いたかね」

「……」

 何だかこういうことを聞かれると気恥ずかしいのは何故だろう。

 四季はしばしして「つい最近です」と答えた。

 詠一は聞いて嬉しそうにした。



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