時は今



 早朝の教室。

 吉野智が一番乗りになろうと開けたら、先に綾川四季がいた。

「あっらー、二番乗り。おはよーございます」

「おはよう、吉野さん」

「…忍が家に行ったらしいですが」

 吉野智が興味津々でにやにや聞くと、四季は幸せそうに言った。

「うん。忍、可愛い」

「ぐわーその一言に凝縮かい!待て。それ以上のろけるなよ!?朝っぱらからうざいから!」

「ひどい。吉野さんから聞いたのに」

「あー聞こえん!なーも聞こえん!」

 両手で耳を塞いで、吉野智は叫ぶ。

「つーことで私は今から発声練習があるから!貴様の忍と一緒だ!邪魔すんなよ!」

 忍は時々演劇部や合唱部と一緒に発声練習やコーラスの練習をしているのである。

 音楽科で声楽をやっている生徒は忍の他にも何名かいて、その生徒たちも忍と同じような参加の仕方をしているのだ。

「──聴きに行こうかな」

 ピアノの練習のために早く登校した四季だったが、智の言葉に興味を惹かれて呟いた。

 智は「王子は来なくていいから」と言う。

「目の前に綾川四季がいると女子の集中力なくなるんで、やめてください」

「何それ。僕は演劇部とか合唱部の歌聴いちゃだめってこと?」

「忍の歌ならいつでも聴けるんじゃないですかー彼氏なら」

「…意味が違うのに」

 他の子たちに混じって歌っている忍が見たいのだ。

「──彼氏?」

 教室の入り口の方で声がした。それも黒木恭介と本田駿というコンビである。

「彼氏って?誰が?」

 と本田駿。

「忍って揺葉忍のこと?吉野さん」

 と黒木恭介。

 吉野智は口をぱくぱくさせる。

「あわわわわ…えーと…その」

 四季がすらりと言い切った。

「僕が忍の彼氏。僕、今日から忍だけだから、忍に手出さないで」

「……」

「……」

 ぽ・かーんと口をあけてふたりは沈黙する。

 本田駿が抗議した。

「……おいコラ待て。何でいつのまにそーなっとる?揺葉忍は俺の女神だぜ」

「俺のって言わないで。忍は誰かの所有物じゃないし」

「……。──マジでか?」



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