時は今
理科室の机は顔を向かい合わせて座るため、自然に話し声が増える。
各グループで考えるようにと与えられた時間にも、授業とは関係のない話も混ざったりもする。
理科室に入ってすぐの机には綾川由貴、綾川四季、立川朔哉、黒木恭介。
その後ろの机に本田駿、長野悠、今井譲、栗本光。
横の机には桜沢涼、吉野智、後藤志奈子、崎原毬子。
由貴たちの机はだいたいはいつも静かに授業を受けている方である。近くにいる本田駿がちょっかいを出して来なければ。
化学教諭の笠間巽が他の机を見て回っている隙を狙って、本田駿がシャーペンで四季をつついてきた。
「もう。何?」
「しくしく。四季くんつれない」
「問題解けないなら、長野くんに」
駿の隣りに座る長野悠が「この問題児、俺にも解けないよ」と冷めた口調で言う。
「だって長野くん教えてくんないんだもん」
「お前、仮にもA組だろう。解けないのは解く気がないから。というより、お前自力で解けるだろう」
「よくおわかりで。本田駿、目下の問題は恋とか女の子とか、ときめくやつの方がいいですねぇ」
「今、授業中。先生の瞳にでも恋すれば?本田駿の株があがるかもよ」
本田駿が笠間巽を見て「うーむ」と唸る。
「そうか…。長野くんの趣味はああいうロマンスグレーの歳上の男性ですか…。渋い趣味ですな」
「俺の趣味か」