時は今
長野悠と本田駿の会話を聞いていた数人がクスクス笑う。笠間巽が「本田」と名指しした。
「黒板に今の問題の解答を書いておく」
「えぇぇ、先生、そんな殺生な」
「試験の点数引くぞ」
「きゃーやめてー。先生ラブ。愛してるー」
「バカ言ってないで書く」
「はーい」
出来る子、ではあるのだ。笠間巽もきっちり問題は解けるのをわかっていて駿を名指ししているのである。
カツカツカツ、と黒板に駿の書く字が並んだ。
「せんせーい、どうですかー。オッケーですかー」
笠間巽が良し、とサインを出した。
「席について。もう少し静かにするように」
「はーい」
黒木恭介が「あんなんで解けるからすごいよな」と言う。
四季が半分まで問題を解いて、何か考え事をしているのか手が止まっている。
四季の隣りに座る由貴は何も言わない。朝、真白の話を四季から聞かされて、虫の居どころが良くないようだ。
恭介が「由貴」と言った。
「本田駿曰く、『おっかない由貴』になってるけど」
「……。ごめん」
息を吐き出して、由貴は四季に「真白に会って話したいことがあるなら、会いに行けばいいよ」と言った。
四季が「うん」と頷く。
(──何、話せばいいんだろう)
このままの気持ちではいけないことはわかるのだが、何を話したらいいのか、まったくわからなかった。
会えば何かは話せるだろうか。
「揺葉さん、大丈夫なの?」
立川朔哉が気遣うように聞いてきた。
「うん。…大丈夫」
四季は気持ちを真っ直ぐにするように座り直した。
「僕の気持ちがしっかりしていれば大丈夫」