時は今



 そんなふうに言われているとは知らず、忍は無心に音を追いかける。

 音を追っていれば、そこにその人がいると知っているからだ。

 真白に会いに行くと話していた。きちんと話をしたいから。何となく胸が痛んだ。

 真白と彼の過ごした時間を忍は知らない。知らない彼を見つけて傷ついた気分になるのは、それが知りたくても深く知ることの出来ない彼であるからだろう。

 何故なら自分が木之本真白という人にはなり得ないからだ。

 でも、だからこそ、揺葉忍なら知ることの出来る彼がいる。私はそれを知っている。

 無理難題をつきつけてくる女王はいつの世も。

 それでも自然は変わらず素敵な音楽を聴かせてくれる。

 連れて行け。

 何処にでも行け。

 風が渡るように自由に。

 私の愛する人。



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