時は今
練習が終わり、生徒が散り始める。忍は携帯を見た。メールが来ている。四季だ。
『器楽室の何処かにいるから起こしに来て』
笑ってしまった。
「起こしに来てって…」
真白に会いに行くと言っていたから、そのまま帰るのだと思っていた。
また学校に戻って来るなんて。しかも文面を見る限り眠っているらしい。
「ゆりりーん、一緒に帰るー?」
杏とほのかが声をかけてくる。忍は「ううん」と答えた。
「先に帰って。私、あと少し残るから」
「ふーん。じゃ、また明日ね」
杏とほのかはよく一緒に帰っているようだ。忍は時々ふたりと一緒に過ごしたい気持ちになることもある。
四季といるのもいいのだが、女の子同士というのもいいものなのだ。こういう時、悩んでしまう。
同じ時を過ごす相手がいないのは退屈で寂しいものだが、多いのも悩んでしまうのだ。
器楽室はしんとしていた。忍は器楽の戸にある小窓から四季がいないか探す。
グランドピアノのある器楽室の一室に四季を見つけた。窓際で椅子にかけて眠っていた。
「──四季」
声をかけると四季はすぐに目を開けた。
「四季、今日はそのまま帰るのかと思った」
「ん…」
四季は憂いを帯びた表情で忍を見る。
「忍に会いたかった」
何処か元気がない。
「真白には会えた?」
「…うん。やっぱり泣いてた」
「……」
忍はもうひとつ椅子を引き寄せてきて、四季の隣りに座る。
四季は「きちんと別れてきた」と言葉にした。
「僕が言うよりも先に、真白からそう言われた。真白に『忍さんを大事にして』ってそう言われた」
「……」
どんな思いで真白はその言葉を言ったのだろうか。
考えると胸が痛くなった。
四季も言葉を途切れさせてしまう。何か色々考えているようだった。
「…忍も」
「ん?」
「忍も、もし僕の身体のことで不安になるんだったらそう言って。忍をこんなことで不安にさせていたりしたら嫌だし」
「…あのね、四季」
忍はため息をついた。
「四季はそのことで自分の気持ちを考えなさすぎ。四季、今自分がどんな顔しているのかわかってるの?」