時は今
[201〜300]
服を貸してくれると言った美歌だが、忍には美歌の服はやや小さい──というより。
「忍さん、美乳…」
美歌は制服の上着を脱いだ忍をまじまじと見て感想を述べた。
「え…あ、あの」
「どうして?美歌より身長ちょっと高いだけですよね?胸、触ってみてもいいですか?」
「え…ええと」
積極的に賛同する気にはなれない質問だが、女の子同士だからいいかなという感覚で忍も抵抗はしなかった。
美歌は遠慮がちに触ってみる。
「わ…。柔らかい」
「ちょ、ちょっと美歌ちゃん、くすぐったい」
忍が笑い出して美歌は手を引っ込める。
「忍さんいいな…。何なのかな、この差」
美歌は自分の胸に手をあてて考え込んでいる。美歌の部屋にあるバレエのレオタードやトゥ・シューズ。忍はそれを見て言った。
「美歌ちゃんはバレエをしているからじゃない?」
「そうなのかな…。確かにバレエは胸はない方が踊りやすくはあるんですけど」
美歌は「困ったな」と呟き、やがていいことを思いついたようだった。
「忍さん、ちょっと待ってて。あれならサイズを選ばないだろうから」
そう言って部屋を出て行ってしまった。
ひとりになった忍は、何となく楽しい気分で部屋を見回す。
美歌の部屋は涼の部屋とはまた少し雰囲気を異にしている。
バレエをしている女の子といった雰囲気の部屋の中に、普通の中学生らしい色。
コルクボードにピンで留められた友達の写真が幾つか。四季と一緒に写っている写真もある。
その写真に写る友達の様子が美歌が普段どんなふうに過ごしている子であるかを窺わせた。
(いろんな生き方の女の子がいるんだな…)
忍には普通の女の子らしい道をたどってきた自信はあまりない。だからなのか美歌のような女の子にこうしてふれられる機会があるのが楽しかった。
「忍さん、お待たせしました」
ものの数分で美歌は手に和服を持って現れた。忍は驚く。
「和服?」
「はい。これならそのまま休めるし。寒かったら羽織ればいいですから」
「あ…あの…。私、和服を着たことってないの」
忍が戸惑いながらそう言うと、美歌はにっこりした。
「大丈夫です。私がお教えしますね」