時は今
着なれない和服を美歌に着せてもらって、忍は鏡の前に立つ。
「わ。思った通り。忍さん、和服で正解です」
「──何だか自分じゃないみたい」
いつもと違う雰囲気の自分に忍自身が照れてしまう。美歌が「忍さん、和服美人」と褒めた。
「お兄ちゃんの部屋行きましょう。お兄ちゃん、ピアノ弾けなくて退屈してるはずだから」
「──そうね」
美歌は勉強道具を抱えて部屋を出た。四季の部屋で勉強するのだと言う。
「お兄ちゃん、入っていい?」
美歌が問いかけると、中から「うん」と声がした。
四季は横になっていたが、美歌の後ろから入ってきた忍を見て身を起こした。
「ふふ。お兄ちゃん、びっくりした」
「…びっくりするよ」
そう言って笑顔がこぼれた。
「忍、似合う」
「美歌もほめて。美歌が和服選んだの」
「うん。美歌、すごい」
「でしょ?」
忍は「ありがとう」と言って四季のそばまで来た。
「熱出すこと、よくあるの?」
「うん…。こういうのは小さい頃から。休んでいたらたぶん大丈夫だと思う」
四季も和服を着ていた。聞いてみると眠る時は和服が多いのだと言う。
理由は寝込んでいる時に急に人が訪ねてきてくれた時でも、和服なら上から何か羽織れば失礼のない装いに見えるから、らしい。
「お兄ちゃんを訪ねてくる人、お取り引き先の方の娘さんとか、それなりの方が多いの。ね、お兄ちゃん」
「うん…。パジャマとかだと急に人が来た時にね」
「な、なるほど…」
忍は納得する。
「お兄ちゃん、お薬飲んだ?」
「…ううん。飲まない方がいいかと思って」
「え?お薬って?」
「解熱鎮痛剤。風邪で熱があるのか、ただの疲れで熱が出ているのか、わからないから。後で病院に行くとなった時に、そういう薬は飲んでいない方がいい場合があるから」
「──そう」
「お兄ちゃんはとりあえずお食事とって。お薬飲まないならなおさら。私は忍さんと勉強してるから」